百器徒然袋 風

2004年8月16日 読書
妖怪作家、京極夏彦の新作

薔薇十字探偵・榎木津礼二郎再び登場!京極堂・中禅寺秋彦をも閉口させる史上最強の探偵・榎木津礼二郎。下僕たちを翻弄しつつ、力技での事件解決が冴え渡る。「五徳猫」「雲外鏡」「面霊気」の3編を収録

これは、ウェブで有料のノベルスとして売り出していたものを編んだ作品ということになる。とはいっても様々な紙媒体にも転載されていたんだが。300円前後で一話づつ売り出していて、僕は「雲外鏡」をウェブマネーで購入した覚えがある。つまり、ウェブでは探偵榎木津が主人公であるこのシリーズは収録された以外にもいくつか発表されている。興味のある方は調べてみるのも吉。

この作品は、本編である妖怪シリーズに出てくる榎木津というキャラクターを主人公に据えたサイドストーリーという位置づけになっている。とは言っても、本編に出てくる登場人物はほとんど登場するし、本編でちらと出た脇役たちも再登場するので、差別化が難しい。単なる枚数上の差で片付けることもできるが、それ以外にもいくつか相違点があるので、それを挙げておきたい

まず、妖怪シリーズでのストーリーテラーである小説家の関口はほとんど出てこない。この作品では代わりに本島という青年が語り部になる。小説家が語るのと一般人である彼が語る表現に大分差をつけてあるのは面白いところだ。電気会社の平社員である本島の語り口は極めて平易で出来事を主観で自分なりの見解を入れつつ語る。登場人物たちとも出会ってまもないので魅力や奇妙な振る舞いに素直に呆れたり驚いたりする。片や関口という小説家の語り口は、同じ主観で語りつつも他の登場人物とは古くからの友人であるという立場からのもので、多少突っ込んだ考察もあり、小説家という職業柄表現力が比較的高い。全く同じ位置に2人を置いて、その違いの妙を楽しませようとしているように見受けられる。そしてこの「百器徒然袋」シリーズは主人公たちの住む地域の周りで起こる事件を扱い、内容は比較的軽い。あくまで日常レベルを逸脱しない俗な事件を扱おうとしているように見える

とは言っても、京極堂ももちろん重要な役どころで出てくるし、憑物落とし(=謎を解き明かし、解決へ導く)もきちんとする。含蓄のある雑学談義も健在だ。個人的には物足りないということは決してないし、こちらのほうがどちらかというと好きだ。勧善懲悪がはっきりしているし、登場人物の日常で見せる様々な表情も面白い。妖怪シリーズの場合、いやがおうにも非日常に放り込まれるので、こちらのほうが身近で感情移入しやすいと思う。まぁ、多少ふざけすぎと思うきらいもあるが

今回は3編が収録されているが、最後で榎木津が取る行動は、このシリーズを時系列に読んできた方なら心打たれること間違いなし。かなり良いです

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