ノルウェイの森

2004年8月28日 読書
作家、村上春樹のベストセラー

暗く重たい雨雲をくぐり抜け、飛行機がハンブルグ空港に着陸すると、天井のスピーカーから小さな音でビートルズの「ノルウェイの森」が流れ出した。僕は1969年、もうすぐ20歳になろうとする秋のできごとを思い出し、激しく混乱していた。――限りない喪失と再生を描き新境地を拓いた長編小説

この作品は村上春樹の認知度を大幅に上げた。クリスマス商戦に上手く乗るような赤と緑の装丁が理由だったとかあれこれ言われているが、結果的に200万部という現代の小説としては異例の売り上げを叩き出した。そして、そういう流行となった作品が例外なく辿る“風化”をこの作品は何故か回避している。この作家の特徴だが、読者の立場からすると何度も読み返すタイプの小説という位置になってしまうらしい。これは思うに、売れたときの作者の戸惑いが結果的に正しかったということなのだろう。村上春樹はこの作品について、「振り返った時、“あぁ、村上さんはああいう小説も書いていましたね”と言われるような、ある種の人々の心に残る佳作になるという予想を立てていた」と言及している。ようするに代表作になるとは思ってもみなかったという事だ。その“読み”は結果的に正しく、内容を多くの読者が気に入った作品ということで風化を免れたのだろう

この作品は、若年層が画一的に見がちな“死”や“喪失”というものを、何人かの登場人物を使い疑似体験させてくれる。そして、その重みといったものが、1969年という時代の懐古的なニュアンスを含め、こういう言い方は不謹慎かもしれないが、非常に心地よい。他の作家もそういったものは疑似体験させてくれるわけだが、この作品の場合は死者や去っていった者たちに対する鎮魂の意思を持ちながら生活していくという部分を非常に上手く、ある種のリアリティすら感じるほど気持ちよく描写している

この作家は、ある種のライフスタイルの型というものを提示している。見方によれば非常に洒落ているし、この作品に限って言えば、他の作品には無い地に足の着いた視点もある。その独特の価値観は、消費というものの“見せ方”を提示し、その型にはある種の普遍性がある。ゆえに現在も若年層に好まれるんではないかと思う

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