陰摩羅鬼の瑕

2004年9月8日 読書
作家、京極夏彦の妖怪シリーズ8作目

白樺湖畔に聳える洋館「鳥の城」は、主の5度目の婚礼を控えていた。過去の花嫁は何者かの手によって悉く初夜に命を奪われているという。花嫁を守るよう依頼された探偵・榎木津礼二郎は、小説家・関口巽と館を訪れる。ただ困惑する小説家をよそに、館の住人達の前で探偵は叫んだ。――おお、そこに人殺しがいる

この作品は作者自身がインタビューで語ったように、既存の妖怪シリーズの“折り返し地点”となる作品になっている。前作「塗仏の宴」でシリーズの流れは一旦区切られ、この作品は第一作の「姑獲鳥の夏」と対を成す形をとっているらしい。その為、膨らみすぎた登場人物の数もかなり絞りこまれ、第一作と同様に小説家関口を物語の主軸に据えている。そして、この作品は前作で精神的に壊れてしまった関口が事件を通して回復し、社会復帰するまでの過程を描いている

作品中、ある場面を関口の視点で描いた後、もう一度館の主人の視点から捉えなおすということを何度か繰り返し、その視点のギャップが事件の謎を解き明かす鍵となる。ただ、ミステリの体裁は取っているものの、トリックは第一作と同じように大して重要視されておらず、取りようによっては滑稽にすら思えるほどの稚拙なものだ。個人的にこの作品は、抑制された雰囲気とこのシリーズの“新作”というだけの楽しみかたをするしかなかった

正直今ひとつと思える作品ではあるが、妖怪シリーズの短編はこの作品以後いくつか発表されており、雰囲気は大分明るく世間ズレしているがなかなか良いので、次回作に期待

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