アフターダーク

2004年9月13日 読書
作家、村上春樹の新作

真夜中から空が白むまでのあいだ、どこかでひっそりと深淵が口を開ける。「風の歌を聴け」から25年、さらに新しい小説世界に向かう村上春樹書下ろし長編小説


この作品は「海辺のカフカ」から作者が試みている変化をさらに推し進めた作品になっている。その変化は作者の持ち味に関わるようなもので、賛否両論あるようだ。一読した限り、本質的な部分は変わっていないようだし、むしろ本来の持ち味を生かすために変化したように見受けられた

そういうわけで、この作品は過去の作品と異なった点が幾つかある。例を挙げると、3人称での描写をしていること、若い女性を主人公にしていること、風俗描写を現実に即した視点から描いていること、恣意的な寓話性を排除していることなど。そして、様々な切り口で何度も描き続けてきた、異なった価値観と理屈で動く2つの世界といったテーマもこの作品では見当たらない。それについては作品中でその理由と呼べそうな台詞を高橋という登場人物に語らせている

文体と世界観の変化は、やはり「海辺のカフカ」発表時にネットでメールを募集し作者が答えるという企画をしたのも結果的に利いているんではないかと思う。様々な読者との対話によって得た市井の人々の視点はこの作品を描くに当たってかなり反映されているように見受けられる。その所為かは知らないが、村上春樹の作品には稀なほど登場人物に“自然な”魅力がある。それらは作者がインタビューで言っていたように、「普遍性があり描くテーマの足枷にならないような文体へのシフトを考えた」ゆえの変化ということになるのだろう。ただ、それゆえに作者の持ち味が薄れたというのも確かなんだが

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