シガテラ 3

2004年9月20日 漫画
漫画家、古谷実の高校生を題材にした作品

自分の意志どおり事が運ぶはずもない青春17遁走曲(フーガ)。ついに残忍な毒の扉が開く!親友と恋人、どちらが大切ですか?高校生が愛欲に耽ってもいいのですか?信賞必罰(しんしょうひつばつ)の原則は守られているのですか?

【遁走曲】…フーガ。複数の主題が次々と複雑に模倣・反復されていく対位法的楽曲。…と、なっている。当初、この作品を「微笑ましい恋物語」「いじめられっ子の心情表現」程度と思って読んでいた人も多かっただろうが、3巻に至り、それぞれのテーマがみるみる覆い尽くさんばかりに広がり、絡まりあい、逃げ出せなくなりつつある。当初から「シガテラ」という毒の名前を題とし、「遁走曲」と称していたことからもわかるように、それもこれも、当然作者の構想の範囲内の展開であろう。作者は、読者の数段先のレベルで物語を作っている。当初それほど意識しなかったこれらのキーワードにこれだけの意味があったのだから、ヒントは作中の至るコマにもあるはず。(まあ、タイトルなんだから、重要であってしかるべきではあるが。)作者のばらまいたそれらを残さず読みつくそうとしても、それを十分に受け入れるだけの奥行きを持った作品だと思う

この作品では1.2巻で描いてきた主人公周りの描写が一段落し、おそらく本編ということになるのであろう、悪意の描写に踏み込んでいる

今回熾烈な体験をする元いじめっ子である谷脇は、自分のした事のリスクも踏まえた上でのシビアな世界観を持ち、それゆえに当然のように殺人を犯し、自分の日常へ戻る。身を守るためだ。谷脇への復讐を考えた主人公の友人である高井にせよ、追い詰められた上での選択であり、そのシビアさは谷脇の持つ世界観に同調する。いじめというのは、いじめている側がいじめられる側に自分の世界観を刷り込む行為でもあるわけで、高井は自分の身を守るために、谷脇のシビアな価値観に視線を合わせ異物として排除しようとした結果、今回の悲劇は起こる。ただ、主人公だけは一貫して幸福で、彼のユルい楽観主義な世界観と彼を取り巻く環境、そして現実的な谷脇達の温度と価値観は対照的な位置に置かれ、物語の冷たさを浮き彫りにする

この作品は、主人公の視点が無ければただの駄作になると思う。個人的にヒミズはその点で今一つだった。今後に期待

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