アンテナ

2004年10月18日 音楽
くるりの5thアルバム

岸田繁が演奏の上手い下手にリアリティを求めるタイプのアーティストではないのは確かだが、必然のない「何でもアリ」を誰より嫌うのもまた確かだ。前作の直後から構想されていたこの5作目は、バンドがロックンロールし続けるための肝をつかんだ、確かな芯のある作品になった。要は、岸田の音楽への潔癖なまでの姿勢が、ようやく彼の思うレヴェルに到達したということなのだろう。新ドラマー、クリストファーのくるりに対する理解と努力が果たした功績も大きい。聴き込むほど増してくる「ロックンロール」の曲・音・発語の絶妙なグルーヴが喚起する前向きな感覚。また、日本民謡的なコード感のある曲での独自の消化力などは目を見張る進化と言えるだろう。早くも2004年最重要作の登場だ

この作品はオリコン上位を獲得し、地上波にほとんど出演しないロックバンドとしてはかなりの成功を収めた。シングルは「ロックンロール」と「How to go」の2曲が収録されており、この2曲の感触から、アルバムはロック色の強いものになるという印象を受けていた為、それほど意外性は無い。今作のリリース前に映画「ジョゼと虎と魚たち」の音楽を担当し、このバンドの持ち味の一つである情緒的で淡々とした音楽性はそこで発揮され、この作品は全く違う手触りになっている

前作での民俗音楽的なアプローチを押し進め、上記にある通り日本民謡的なテイストを全編に散りばめている。以前の音響的なアプローチはほぼ完全に無くなり、レイドバックと言えるような泥臭い音が鳴っている。音のほうだが、前作よりそれぞれの楽器が各々はっきりと鳴っているような作りで、アコースティックギターが効果的に使われている。アレンジはシンプルだが構成に多少趣向が凝らしてあって、聴き慣れるまでに時間がかかった

前作での民俗音楽の導入が受け入れられたことでこの作品の音楽性に踏み切ったのだろうが、前作はポップスとしても成立するように工夫が凝らしてあった。今作は野心作というか、趣味性が爆発したというか、明らかに今までの売りを度外視した魅力を発揮しようとしている。この作品の後に出た「オールドタイマー」でもその音楽性は踏襲されているようなので、これでしばらく行くつもりなのだろう。現在のシーンでこの音を鳴らすことの意味合いくらいは分かるつもりだが・・・

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