Lost In Translation

2004年12月9日 映画
ソフィア・コッポラ監督作品

ソフィア・コッポラ監督が、自らの来日での経験を生かして書き上げた本作で、第76回アカデミー賞脚本賞を受賞。CMを撮るために来日したハリウッドのアクション・スターと、ミュージシャンの夫に同行するも、ホテルに取り残されたアメリカ人女性が、たがいの気持ちを理解し合う。ただそれだけの物語だが、東京のカルチャーが外国人旅行者の目線で鮮やかに映し出され、彼らの高揚感と孤独、とまどいを伝えていく。タイトルにあるとおり通訳の不備で意志の疎通ができないもどかしさや、某ハリウッド女優をパロったキャラが笑いを誘いつつ、主人公ふたりの感情を台詞の「間(ま)」で表現するなど、アメリカ映画とは思えない曖昧さが本作の魅力。むしろ「間」の感覚を知る日本人の視点で観た方が、より主人公たちの切なさを感じられるかも。コミカルとシビアな表情をさり気なく使い分けるビル・マーレイと、控え目に孤独感を表現するスカーレット・ヨハンソンの演技には存分に共感。「はっぴいえんど」を始めとするサントラの選曲も含め、映画に描かれるあらゆる要素が、優しく繊細に登場人物の心を代弁する

この作品は日本の文化面をかなり正確に描写しており、日本人が撮った作品(TV含む)とほぼ同じ質感になっている。ただ、日本の作品の場合“場所”というのはあくまで舞台装置であるのに対し、スカーレット・ヨハンソンとビル・マーレーの哀感漂う演技と旅行者という役柄が放り込まれたこの作品では、当然のことだがそこに意味合いが見出されている。お互い面識が無くホテルにこもってばかりいる序盤から、言葉を交わすようになり2人で遊びに繰り出していく中盤、東京を気に入りお互い別々に自然に過ごすようになる後半を通して、外国人ならずとも経験のあるような心の動きを監督はあくまで状況描写のみで成立させていく

物語自体には大きな起伏といったものは無い。というか、「無い」と思うのはその文化を常識として知っている日本人の視点の所為かも知れず、外国の目から見ればそれなりに刺激的なのかもしれない。少なくともこの作品では東京という街に対して肯定的な描き方をしているように見える。主軸となるのは2人の心の交流であり、最後まで観れば嫌味なく感情移入できると思う

エンドロールが終わった後写真家のヒロミックスが一瞬写り「グッバイ」と手を振り物語は終わる。その為、外国の方に「擬似的な東京観光」を味わっていただこう的な雰囲気が一気に出てしまいがっくりきたが、それを踏まえたうえでもなかなか良い作品。アメリカの市井の感覚を体現したビル・マーレー、若い世代の感覚を体現しているスカーレット・ヨハンソンの画面での調和、アメリカンテイストと東京の温度のバランス感覚は絶妙かつ独特で心地よい。ただ、全編通して静かな映画なのでその辺りをだるいと感じる方もいるかもしれないが・・・

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

日記内を検索