浅野忠信主演作品

70年代初頭、激動のインドシナ半島を駆けめぐった戦場カメラマン、一ノ瀬泰造の伝記作である。最後に悪名高きクメール・ルージュ(カンボジア大量虐殺を引き起こしたポル・ポト率いる共産党勢力)支配下の遺跡、アンコールワットの撮影に向かった彼は、そのまま帰らぬ人となった。物語では、子供たちとの交歓、べトナム美人との淡い恋、日本への一時帰国時における姉の結婚や、カンボジアでの親友の披露宴といった、ごく平穏な風景の描写がされている。これらが浅野十八番の親しみやすく天真爛漫なキャラクターと相まって、逆に現場の過酷さ、悲惨さを浮き立たせている。静と動のコントラストが絶妙な、五十嵐匠監督作品だ

この作品は実在の人物の伝記的意味合いがあり、モチーフとなった人物の密度の濃い生き様を表現しようと試みている。そして、浅野忠信はその人物を魅力的に演じることにおいて非常に貢献している。しかし、政情が不安定な国という舞台ではそれ以上の物を見せてもらいたいと思うのはアレだろうか。彼が戦場を職場に選び駆ける意味やそれに費やす生命力の躍動というようなものを見せて欲しかった。ラストシーンは、浅野主演映画にありがちなむなしさや空虚さを暴力性やテンションで乗り切るといったテイストで、結局この映画はモチーフになった戦場カメラマン、一ノ瀬泰造ではなく“浅野忠信”の為の映画だと認識させられがっくりきた

つまらないかといえばそうでもない。それなりのものだと割り切れば観られる映画ではある。ただ、できれば完全なフィクションとして製作して欲しかったところ。それなら良作だといえるんだが

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