空中ブランコ

2005年1月30日 読書
作家、奥田英朗が描いた連作短編

傑作『イン・ザ・プール』から二年。伊良部ふたたび!ジャンプがうまくいかないサーカス団の団員、先端恐怖症のヤクザ……。精神科医伊良部のもとには今日もおかしな患者たちが訪れる


各々の短編には主人公が居て、それぞれ様々な悩みを持ち現実に行き詰っている。彼らは軽い気持ちで病院へ足を運ぶが、待ち受けていたのは稚気溢れる神経科医・伊良部一郎だった。マイペースな彼に翻弄されていく主人公たちは、伊良部との絡みの中で解決への光明を見出すことになる

まず、伊良部という神経科医の人物造形が一風変わっている。でっぷりと太った体格、ぼさぼさの髪、中年の割りに子供っぽく自分の欲求に何処までも忠実な性格。親が日本医師会の大物ということで甘やかされて育てられてきたことをひしひしと感じさせる。父親が経営する総合病院の神経科に勤務するも、病院の地下に追いやられ、毎日暇をもてあましているという設定だ。どこを切ってもあまり魅力的とは言いがたい人物で、実際訪れる患者にも常識外れの言動や子供っぽい振る舞いの所為で呆れられることがほとんどだ

この作品において伊良部は患者にほとんど何もしない。そのかわり自分の好き勝手に患者を振り回す。その振り回す部分がこの作品が「笑える」という評判の原因になっているわけだが、患者=主人公たちにとって伊良部の存在は治るためのきっかけに過ぎず、伊良部のそれとない示唆にも気づいたり気づかなかったりで、なにやらドタバタやっているうちに自ら病気を克服していく

主人公たちは社会的な立場があり、自分の属する世界で精神的に煮詰まっている。そして伊良部と出会いガス抜きされることで自我の肥大と視野狭窄をまず克服し、視点をフラットな位置に戻し、本来の人間らしさを思い出すことになるのだ

個人的にはハートウォーミングな面に目が行ったが、単にコメディとして読んでもそこそこ面白い。「義父のヅラ」という短編は爆笑モノ

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