黒船

2005年4月20日 漫画
漫画家、黒田硫黄の短編集

「このおもしろさが判る奴は本物だ」。かの宮崎駿監督は黒田硫黄作品をこう評したが、その魅力が凝縮された12タイトルの中短編を収録した本書を一読すれば、誰しもその評価に納得するに違いない。18世紀を舞台とした海洋冒険譚である中編「鋼鉄クラーケン」や、江戸時代にベトナムから日本にやってきた象とその飼い主の物語である「象の股旅」は、紆余曲折のドラマがはるかなロマンを感じさせる。一転して、現代の平凡な女学生の日常風景「年の離れた男」や料理マンガ「肉じゃがやめろ!」では、ひょうひょうとしたユーモラスな展開を見せつつ生活感も感じさせる。内容は非常にバラエティーに富んでいるが、そのどれもが厚みのあるおもしろさを発揮している。独特の筆絵調のタッチはとても絵画的である。少なくとも写実的ではない。しかし、黒田硫黄作品の登場人物には、まるですぐそこに存在しているかのごとき躍動感がある。それを生みだしているのが、登場人物の表情の豊かさだ。気をつけてみると、1カットたりとも同じ表情をしていることがないのには驚かされる。構図取りの見事さも特筆モノだ。1コマ1コマがまるでカメラマンの作品のようで、一瞬の風景をとても印象的にとらえている。本書収録の「わたしのせんせい」は、主人公の少女が自転車で走っていくシーンで終わる。ここではたった2ページの間で前後左右、上下、アップ、俯瞰の構図を巧みに使い分けており、気持ちの良い余韻を演出している。本書収録作品は1話2ページの短編から90ページ超の中編までがそろっている。じっくり読みたい人も軽く試してみたい人も、これ1冊で黒田硫黄の魅力を存分に味わえるはずだ

初期〜中期の作品を網羅した短編集「大王」以降の短編を編んだ作品。12編が収められている。上記にあるように宮崎駿からお墨付きを貰うなどの世間的な高評価を受け編まれた作品といえる

漫画家としてのオリジナリティの模索も終了し独自性の固まった作風になった時期に描かれた作品の為、読後感は一定になっている。内容は、取り上げるテーマに寓話性を出した作品と、俗っぽい題材を取り上げた作品の2パターンに大別される。しかし、画風が良くも悪くも牧歌的なので、寓話性を出した作品だと「大人の為の絵本」的な印象を受けてしまう。「セクシーボイスアンドロボ」に代表されるような俗っぽい題材を取り上げたほうがこの漫画家は活きるのではないかと思った。作品を俯瞰すると、現在のメジャー誌の人気作の魅力に対するアンチテーゼ的なニュアンスが感じられる。それもオルタナティヴなノリではなく「本来の漫画の魅力はこうあるべき」というような、真っ向から張り合うような打ち出し方だ。隙間産業ではない!というか

2ページほどの連作漫画「肉じゃが止めろ!」は、おまけ的ポジションだがこの作者のスタンスが明確になった佳作だと思う。基本的に応用編という感触なので、この漫画家の魅力を知りたい初心者は素直に「大王」から入る事をお勧めします

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