夜のピクニック

2005年4月27日 読書
作家、恩田陸の話題作

あの一夜に起きた出来事は、紛れもない奇蹟だった、とあたしは思う。夜を徹して八十キロを歩き通す、高校生活最後の一大イベント「歩行祭」。三年間わだかまっていた想いを清算すべく、あたしは一つの賭けを胸に秘め、当日を迎えた。去来する思い出、予期せぬ闖入者、積み重なる疲労。気ばかり焦り、何もできないままゴールは迫る――。ノスタルジーの魔術師が贈る、永遠普遍の青春小説

主人公たちが所属する高校の伝統行事である「歩行祭」。全校生徒が学校を出発し翌日の昼までひたすら歩き続け学校へ戻るイベントで、この作品はその一日分しか時間は進まない。しかし、その間に起こる出来事は主人公たちの人生を少しだけ良い方向へ導いてくれるのだ

この作品は、2人の主人公である西脇融(とおる)と甲田貴子の視点で語られる。2人は同級生だが異母兄妹でもあり、そのことは学校では誰にも知られていない。西脇は浮気相手の娘で妹でもある貴子に憎しみにも似た感情を抱いており、貴子はそれを感じながらもフラットでいようと努力している。二人は同じ高校に居ながら3年間一言も言葉を交わしたことが無いのだ。歩行祭が終われば受験に突入しすぐに卒業してしまうと思った貴子は、このイベントの間に西脇と言葉を交わす機会を作りたいと望む

たった一日の出来事ながら、上記の事柄を軸にしつつ登場人物たちの様々な思いが描かれ、それが終盤になっていくにしたがって徐々にあるべきところに落ち着いていく。主要な登場人物は皆魅力的で、友人関係における心の交流がみずみずしく描かれる。「先が気になる」と読み急ぐより、その時々の登場人物の、気の利いた・・・あるいは行き違う言葉と気持ちの応酬をゆっくりと楽しむタイプの作品だ。登場人物たちの気持ちが重なり主人公2人が徐々に通い合っていく様は独特の高揚感とさわやかさがある。終盤のカタルシスを綺麗に着地させており、読後感は晴れ晴れとしたものだ

学生時代の良い部分を抽出した作品という印象。テーマ的に臭くなりがちな部分を上手く回避しているあたりはさすが。懐かしく学生時代を思い出せるはず

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