半島を出よ 下

2005年5月5日 読書
作家、村上龍の長編

幻冬舎創立11周年記念特別書き下ろし作品、1650枚。さらなるテロの危険に日本政府は福岡を封鎖する。逮捕、拷問、粛清、白昼の銃撃戦、被占領者の苦悩と危険な恋。北朝鮮の後続部隊12万人が博多港に接近するなか、ある若者たちが決死の抵抗を開始した。現実を凌駕する想像力と、精密な描写で迫る聖戦のすべて

上巻のレビューをまずは参照されたし

下巻では、上巻で登場した日本政府の官僚数名や新聞記者は背景をかなり掘り下げてキャラも上手く立たせてあった割りに全く登場しない。その代わりに医療施設で勤務する医師や占領軍と直接的に関わる仕事を請け負った市役所職員などを同じように掘り下げ描写する。キャラクターを立てそれに依存し話を転がすという手法はこの作品のテーマ上難しかったのかもしれない。結果的にはより多面的に“支配”の内実を知ることができるようになっている。それを少年たちの描写の合間に挟み終盤の直前まで語ることによって、福岡が占領されたことに人々が反発しあるいは受け入れつつも彼らが持つ今後への不安を生活レベルから浮き彫りにし、それゆえにクライマックスのカタルシスが増すという効果を生んでいる

この作品は主に上巻で軽く描いた社会不適応者の少年たちを中心に描かれる。彼らが北朝鮮の占領軍を“敵”と認識し、自らの破戒衝動をぶつける相手として選び実際に行動を起こしていく様を、北朝鮮側や福岡市民の視点を挟みつつ断続的に描く。そこには福岡を救うというようなヒロイックな感情は微塵も無く、仲間たちで一つのイベントを成就させるというような興奮とカタルシスを求めるが故の行動というわけでもない。感情が未発達でコミュニケーション不全の少年たちが黙々とテロを行動に移していく様が何の理由付けも無く描かれるのみだ。その代わり、彼らが不幸な出自を持ち生き延びる為の攻撃性を身につけつつも社会から弾かれていたという部分は執拗にプッシュされる。その為、読み終えてみると「国家の危機を社会的弱者の若者が救う」という、若い読者にとっては溜飲が下がりっぱなしのフェアリーテイルになってしまっている

物語はクライマックスの緊迫感を徐々に解きほぐす穏やかなエピローグをつけることでさわやかな読後感になっている。文章のリズムに慣れるのに時間がかかったが、読み応えのあるなかなか良い作品でした

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