ミステリ作家、島田荘司のシリーズモノ

聖夜、名探偵・御手洗潔(みたらいきよし)の推理が起こした、心優しい奇跡とは!?ロマノフ王朝のダイヤの靴に秘められた謎。「これは大事件ですよ」「占星術殺人事件」の直後、馬車道の仕事場を訪ねてきた老婦人に名探偵・御手洗潔は断言した。とある教会で開かれたバザーで、彼女の知人がとった奇妙な行動には、隠された意図があったのだという。ロシアのロマノフ王朝から明治政府に贈られた「セント・ニコラスのダイヤモンドの靴」をめぐって起きた事件を御手洗が解き明かす! クリスマスの夜、少女のために名探偵が起こす奇跡とは!?

“新”本格ミステリの大御所、島田荘司の創り出した魅力的なキャラクターである“御手洗潔(みたらいきよし)”シリーズ最新作。今作ではそのシリーズの代表作ともいえる「占星術殺人事件」から日の経っていない時期、つまり御手洗とワトソン役の石岡の名コンビが共に暮らしていた時代を舞台にしている。現在御手洗は外国へ行ってしまっていて、2005年という舞台設定の新作は望めなくなっているわけで・・・今作は人気作の時代を踏襲し作者の下心と読者へのサービス精神が同居した作品になっている

今作は書き下ろしの短編から幕を開ける。内容といえば作者お得意の知識のひけらかしで、表題になった「セント・ニコラスのダイヤモンドの靴」の社会的な背景を御手洗を含む外国人たちが討論しているというもの。そこで、その宝飾品にまつわるエピソードがあったのだよと御手洗が語りだすというシーンで作品は終わる。ようするに、本編の枕になっているわけだ。その後本編が始まるわけだが、懐古商法ここに極まれりという按配で、自己模倣が読者に望まれていることの一つだと充分に理解したうえでの内容になっている

御手洗と石岡が楽しく貧乏な共同生活を送っている部屋に老婦人が尋ねてくる。彼女の世間話から御手洗は事件の匂いをかぎつけ奔走することになる。テーマに掲げたセント・ニコラスのダイヤモンドの靴の絡ませ方も安易ならプロットも酷いもので、なんだか読んでいて悲しくなってくる。作風である薀蓄と物語の乖離っぷりも泣ける。子供と老人を使えば視聴率が稼げるというような話を聞いたことがあるが、それを見事に踏襲している。情けない

ただ、辛口になるのはこの作家の輝きを知っているからで、その輝きが現在発揮できていないことをこの作家自身も理解していてなおかつその時代を利用しようとしているからだ。しかし、そんなあざとさを突きつけられても、御手洗シリーズは嫌いになれない。このシリーズは単なるミステリではなく“力強い優しさ”や“救済”を提示するヒーローモノだからだ。アクの強い名探偵なんてミステリにおいては時代錯誤かもしれないが、この作家にはそれを求めてしまうし、それにある程度応えてくれていると思う。贔屓目かもしれないが・・・

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