松尾スズキ主演作品

伊良部総合病院の地下にある神経科の精神科医、伊良部のところに24時間勃起しっぱなしという病に冒された営業マン、家のガス・電気・鍵をしめたか気になって、何度も確認のために帰宅してしまう強迫神経症のルポライターなどの患者がやってくる。が、そんな患者たちも引きまくる変人の伊良部。患者を振り回し、いい加減な発言も多いが、その中には核心に迫る言葉もあり、患者たちは次第に伊良部にのせられていく…。直木賞を受賞した奥田英朗の『空中ブランコ』の伊良部シリーズ第1作が、松尾スズキ主演で映画化。松尾が自分の個性を伊良部にぶつけたことで、原作とは違う、映画版の新・伊良部が生まれた。しかし、松尾のひとり舞台と思いきや、勃起症の男を演じるオダギリジョー、神経症の市川実和子、ほかプール依存症の田辺誠一など患者を演じる役者たちの好演のおかげで、心の病がテーマの作品がユーモラスで後味さわやかな作品に。ストレスの捌け口を見いだせずに苦しんでいる人にオススメ。思い切り笑って心が軽くなること必至だ。監督はTVバラエティ&ドラマの演出を手掛けてきた三木聡。

原作のほうを先に読んでいたので、ある程度筋は分かった上で観ることになったが、原作を忠実にトレースしているわけではなく、からっと明るい作品になっていた。

3人の患者(?)の日々の生活を描き、時折訪れる病院での珍妙なやり取りはほとんどコントに近い。主演は松尾スズキということに一応なってはいるが、3人に割かれた時間は多く、手触りとしては群像劇という印象で彼らに感情移入する形で楽しむ作品になっている。どこか抜けたユルい雰囲気で気楽に観ることができる。

原作のほうは、切迫した精神状態から病気ではないかと患者自身が判断し病院へ赴く。その切迫した部分をある程度の量描き、その緊張感と主人公の医者・伊良部の稚気溢れるユルさの対比が魅力の大部分になっていた。緊張感とユルさが相殺されフラットで安定した精神状態に先ず持って行き、そこで改めて自分を見直すことで正常な判断を下せるようになるという具合だ。しかしこの作品はその部分を踏襲せず、患者たちは病気の中でもそれなりに日常を送りどこかとぼけた味わいを出している。病気の特殊さゆえに笑えてしまうという部分を前面に出しているのだ。まぁ、精神の病を映像で魅せる以上、モノローグを多用するわけにも行かないだろうしそういう切り口しかなかったのだろうとは思う。しかしながら「変な病気を変な医者が治療する」という物語になっていて、原作では伊良部が患者にさりげない示唆をいくつも与えることで、伊良部が“意図的に”稚気溢れる振る舞いをしているという部分を匂わせていたが、今作では単に変で笑える医者という風に見えてしまった。

ただ、映像としての再現性は悪くない。絵的にはコレしかないだろうというレベルまで持っていっている。全体的な質を再現するわけではなく、映像化する意義というか・・・その絵的に笑える部分だけを押し進めてあるという印象。というか、あれこれ考えるよりも観て笑うという楽しみ方が吉。

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