トニー滝谷

2005年11月2日 映画
イッセー尾形主演作品

村上春樹原作の同名短編を、市川準監督が映画化。ジャズ・ミュージシャンの息子として生まれ、「トニー」という名を付けられた主人公がイラストレーターとなり、仕事先の編集部員、英子と結ばれる。幸せな結婚生活で唯一の問題は、英子が次々と新しい洋服を買うという依存症だった…。イッセー尾形がトニーを淡々と演じ、英子役の宮沢りえも、言いようのない焦燥感を絶妙に表現する(彼女は妻の“身代わり”となる女性と2役を好演)。ゆっくりと左方向へ動いていくパン(水平移動のカメラワーク)が心地よい。トニーの幼い頃の生活から、仕事、結婚生活と移りゆく日々が、走馬燈のように画面を流れていく。カメラと被写体の距離感は、市川監督の『病院で死ぬということ』を思い出させる。西島秀俊のナレーション、坂本龍一作曲のピアノ曲など、多くの要素がマッチした映像世界が伝えるのは、孤独であることの哀しさと心地よさの二面性。結局、人間は死ぬまで独りであると納得させられながらも、それはそれで辛いのだという思いが、ふつふつと湧き上がってくる。

村上春樹の短編集「レキシントンの幽霊」収録の「トニー滝谷」をイッセー尾形と宮沢りえ主演で映像化。精緻なイラストを書く事を生業としたトニー滝谷の孤独な半生を描く。

トニー滝谷という人物の幼少の頃からの孤独を、本人は気づかずとも観るものには分かるように描いて行き、その孤独が妻となる女性と出会うことで自覚され、さらに妻を失い孤独を感じる心だけが残り、それを埋めるためにちょっとした抵抗をしつつも、最終的には諦め孤独な日常へ戻っていく・・・というのが原作のおおまかな筋なのだが、今作ではオリジナルの演出を加え、トニー滝谷という人物に少し救いを持たせるような物語にしてある。

この作品は原作のテイストを忠実に再現することのみを最優先にしているという印象を受ける。村上春樹の世界観の魅力の一端である静謐で詩的でゆるやかな・・・こういう言い方は失礼かもしれないが、現実の時間の流れ方と異なったもう一つの時間を作り出す技術を踏襲しているように思える。結果、それはある程度成功していて、現実の猥雑さと喧騒を完全に除外した映像も相まって非常に鎮静作用の強い作品になっている。

今作は現在の作品とは思えないほど音の少ない作品になっている。モノローグをつらつらと述べた後に登場人物がそのモノローグに沿った台詞を述べることで、奇妙な味わいのようなものがある。ただ、物語が非常にスローペースで“間”を重視した作品であり、そのペースが現実から逸脱している為、リズムに乗り切るのに苦労するかもしれない。原作を読んでいるのなら再現性の高さに納得すること請け合い。

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