作家、町田康の描いた時代劇

この作品は確か文芸誌に連載されていて、予定されていた期日までに単行本化が間に合わないと知った作者が途中で連載を打ち切り、後半部分を書き下ろしで執筆したといういわくつきの一品
読んでみると、前半は登場人物同士が互いの思惑を隠しつつ絡み合うことを物語の軸にすえているが、まぁようするに会話の妙を楽しんだりお得意の人間の意地の悪さを独特の視点で描写しているってことだが、後半部分になると物語を展開させていくことのほうにシフトしていって、これもまた小説としては当然なのかもしれないが、その前半部分と後半部分の溝がくっきりとしていて下手すりゃ前半でしていた人物描写を度外視するような展開もあり、最後にむけてがたがたとすべてが壊れていくさまをみせる

個人的にはストーリーより人物描写と会話を町田康の良さと捉えてるんだが、その点この作品はどうにも物足りない。大きな物語を描かれるよりちまちました人間のマイナスの感情を揶揄しながら描かれるほうが好きなんで。ただ、この作品がつまらないかというと、前半部分だけでかなり面白い。ちょっと毛色の変わった作品ではあるが。「夫婦茶碗」あたりの主人公の情けなさと温度が個人的には適温

Dr.コトー診療所

2004年6月15日 TV
フジTVで放送された医療ドラマ

離島の診療所に赴任した一人の医師が、島民との交流を通じで理想の医療のあり方を体現する姿を描いたヒューマンドラマ。本土から遠く離れた南国の離島の診療所にやってきた外科医・五島健助(吉岡秀隆)。そこには満足な医療器具もなく、診療所を訪れる患者もほとんどいない。しかし、誠実をつくした治療に島民の心を掴んだ五島は、いつしかコトーと親しみを込めて呼ばれるようになる。『北の国から』の南国離島篇とも言うべき力作で、ロケ撮影の素晴らしさはテレビドラマのスケールを越えている。主演の吉岡秀隆はそんな作品のブランド・クオリティとして、抜群の存在感をみせる。スーパーオペを連発してもちっともスーパーヒーローに見えないあたりが、いかにも吉岡秀隆らしいところ。優等生的な展開が多く、全体的にちょっと美しく仕上がりすぎている気もするけれど、ヒューマンとメルヘンのギリギリの線を狙っている脚本の意図はきちっと伝わってくるし、温かみにあふれた読後感にはやはり捨てがたい魅力がある

このドラマはTV放送時はあまり注目しておらず、物語の途中からはまり、ついにDVDBOXを買うに至った。観光客から見た南国のある種のイメージを損なわない作品だと思う。BOXには出演者の個別インタビューやドキュメントが収録されていて、かなり貴重な映像が見れるし、この作品の雰囲気を撮影中も保っていたことがわかり興ざめしないで済むというか、様々なスタンスで真摯に取り組んでいた事を知りドラマがさらに面白くなるような特典になっている

やはり個人的には優しくも情けなく、医療の技術は素晴らしいコトー先生に感情移入しがちだが、泉谷しげる演じるしげさんも捨てがたい。田舎の牧歌的な部分ばかりではなく、排他的なところをきちんと描いたのも好印象だった。人とのつながりを大事にするところ程そういうことがあるし、普段の距離感が近いからこそ排除する時は徹底的だ。しかしコトーと普段付き合っていた人たちは彼を信じ、コトーを島から排除しようとしたしげさんにせよ、世話になり島民のためを思い診療をしていたコトーの人間性を心のどこかで信じている。こういう緩急をつけた演出があるからこそ単なるファンタジーで終わらない不思議なリアリティがあるのではないかと思う

imagination

2004年6月15日 音楽
クラムボンの5thアルバム

音響、そしてリズム的にもかなりの実験作だった『id』を経て、2002〜2003年は彼らを含み、Polarisやハナレグミも活動をともにし、完成された作品。元来、ジャズ研っぽい演奏力はお墨付きの彼らだが、ここにきてメロディや歌詞の分かりやすさでポップを表現するでもなく、ぶっちゃけられたさまざまなイマジネーション(時に妄想)そのものがポップ=普遍的だと言わんばかりの充実した楽曲を多産している。ダルなジャズ的アンサンブルに乗せ独白する原田郁子の等身大の姿(「Y・S・G・R」)も新鮮。ジャズ、ソウル、バブルガム・ポップ、ネオアコ、AORなど、さまざまな音楽要素を掌中に収めた楽曲が並び、完成度の高い1枚に仕上がった

この作品がリリースされる前に沖縄で行われたライブがあり、それに参加したところかなり心打たれ、以来聴くようになった。そんなにわかファンとしての視点からのこの作品だが、正直あまり良くない。聴き込んだところ基本となる部分は特に変わっていない。しかし、音響的なアプローチやらポエトリーリーディング的なものやら・・・個人的に期待していた類の音とは多少のずれがあった。以前のようなアレンジの楽曲を作って欲しいと思う。

Degustation a Jazz

2004年6月15日 音楽
菊地成孔のソロアルバム

DCPRG(デートコース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデン)の菊地成孔による初めてのジャズ・リーダー・アルバム。スペイン人シェフが発明したという、一品一口ずつのフランス料理フルコース“デギュスタシオン”にインスパイアされ、1〜2分の短い演奏が41曲収録されている。静謐なデュオやトリオから、ビッグ・バンド風、アフロ・ファンク風、エレクトロニクス中心のアヴァンギャルドまで、次々にアプローチを変えて繰り出されるさまは、まさしくフルコースの趣。UAやカヒミ・カリィらゲストが大挙参加し、20通り以上の組み合わせでセッションを行いつつ、収録されたのはほんの断片的な演奏という贅沢さ。全体に漂うインテリジェントで官能的な空気感も含め、実に菊地らしい作品といえる

取り上げておいてこういう事を言うのもなんだが、この作品は一聴した時良さがさっぱり分からなかった。不勉強で申し訳ないが、菊地成孔という人物を良く知らず、なにやら評価の高い人だということでとりあえず新譜を買ってみたという。ところがそれが変則的ジャズアルバムだったというわけだ。このアーティストは普通にPOPSの作品も作っているようなので、J−POP専門の僕が聴いてもすぐに良さが分かると甘く考えていたのだ。このアルバムに関してだけ言えばあいにくとそういった音楽性ではなかった。しかし、カヒミ・カリィやUAが参加しているヴォーカル入りの曲もあり、その辺りはJAZZっぽいもののまだ理解可能。カヒミの声質に合っているし、単純に格好良い

ジャズは今勉強中なんで良さをわかるようになってから改めてレビューしたいところ
佐野元春、杉真理等が参加したナイアガラレーベルのアルバム

『A LONG VACATION』に続き、20thアニバーサリー・エディションとして大滝詠一本人がリマスターを手がけた逸品。当時、大滝のスローガンだった「アンチ歌謡曲」のもと、あえてヴォーカルをオケに埋めてミックスしたことを「ちょっと埋めすぎていたね」と後悔していたという。本来、歌とともにサウンドとしても聴ける音楽として制作された

「Each time」も聴いた上で言うが、音がどうこう曲がどうこう以前にアレンジが古い。かなり前の作品だししょうがないっちゃあしょうがないんだが、時代に風化しすぎの感が否めない。例えば、ラジオ等で現代の曲と続けさまにかかったらギャップが凄いんではないかと。ただ、何度か聞き込んでみたところアレンジの古さは気にならなくなり音楽を楽しめるようになった。単に個人的に耳慣れていなかったためだろうか

楽曲のクオリティはかなりのものだし、参加しているそれぞれのヴォーカルも独自の色を出している。このアルバムに参加しているデビューまもない佐野元春はロック寄りのアプローチをしている曲を歌い、その後の活動を示唆するような勢いを感じるし、彼の独特の歌唱法もこの時点ですでにある程度形になっている。ただ、個人的はそれ以外のPOPS寄りの曲「A面で恋をして」が好きだ

Preemptive Stri

2004年6月15日 音楽
DJシャドウのフルアルバム

本作は、メジャー・レーベルに移籍する前のDJシャドウの作品を1枚にまとめたコンパクトなコンピレーションだ。ブートレッグに手を出すなという意味でのリリースでもあり、新たなファンに今後の教訓を示したといえるだろう。結果は当然ながら雑多な内容となったわけだが、どのトラックも驚くべき才能の発展ぶりを示している。アルバム全体に共通するのは、ジャジーなビートとサイケデリックなループだ。DJシャドウことジョシュ・デイヴィスは、オールド・スクール・ファンク(「In/Flux」)から、1960年代スタイルの荒っぽいギターをフィーチャーしたお祭り騒ぎ(「High Noon」)まで、ありとあらゆる表現様式を駆使している。しかし本作中もっとも重要なのは、4部から成る「What Does Your Soul Look Like」だ。これは、おそらくサンプリングが全面展開する初のロック・オペラではないだろうか。不思議なサウンド、鋭い切れ味、さまざまな表情の変化に彩られた、実に才気あふれる曲である。ついでに言えば、批評家筋から絶賛されたアルバム『Endtroducing』のどのトラックよりも間違いなくすばらしい

DJシャドウがレイジのヴォーカルだったザックのアルバムの音作りに参加しているとのことで(古い情報だが・・・)大昔に買ったこのアルバムをまた聴き直してみた。正直、今聴くとキュアーの曲をサンプリングした「ハイヌーン」以外聴くべきところはあまり無い。あくまで個人的にだが

このアルバム以外は持っていないが、ソロ名義の新作もなかなか良いらしい。とりあえず、ザックのアルバムを楽しみに待っていようと思う

いまひとたびの

2004年6月14日 読書
志水辰夫の短編集

個人的には「裂けて海峡」から入って「背いて故郷」までしか読んでなかった。その2作でイメージを固めていたが、この作品で変わった

この作品で、冒険小説を書いていた頃から定評のあった心の機微と中年男性の視線の描写を掘り下げている。過剰な物語や非日常を描いてはおらず、あくまで社会の中で生きる普通の男性の日常を切り取るだけだ。だから最初は地味に感じるし物語の世界にはいるまで時間がかかる。しかし、それを補って有り余るほど・・・でもないかも知れんが、人の思いやりと穏やかな諦観、山や川、森などの自然を大事に扱った世界観を楽しめる

相変わらず主人公の年齢設定が高すぎてアレだが、主人公の日常への目配りや捉え方のバランスが良い。ただ、病気を絡めすぎではないかと思ったが、想定している読者層には身近で共感できる話題なんだろう。短編集だからかもしれないが、余分な情報を抑えて心の機微に焦点を絞っているように見受けられる

正直な感想を言えば、この作品は若年層向けではないと思う。共感するという楽しみ方ができないからだ。ただ、ある程度本に触れる機会があり、若年層向けの装飾の多い文章に飽きた方は手にとってもいいかもしれない。残念ながら、僕はそこまで読み込んでいないので印象が薄いんだが

ASTROMANTIC

2004年6月13日 音楽
m-floが様々なアーティストと共演した3rdアルバム

リサが脱退し外部の仕事を中心に活動していたが、このたび満を持して発表された作品。様々なアーティストをフィーチャリングしていて、話題性はかなりのものだったと思われる。実際のところ、結構売れたらしく、このアーティストへの認知度も高まったようだ

ただ、この作品は疲れる。それが楽曲の濃さのせいなのかどうか分からないが、シングルで切られている各々の曲の自己主張の強さによって緩急がなくなってしまっているようだ。例えばベストアルバムや近作のm-flo insideを聴いても、やはりバラードというかスローな曲はアップテンポな曲を引き立たせるためにも必要だと思う。今回のアルバムは曲選も良くて、本当にバランス良くいろんなジャンルの アーティストをフィーチャリングしてるとは思うんだが

山本領平×メロディではドラムンベース、ドラゴンアッシュは変則的なハウス、DOUBLEはJAZZを歌い上げ、野宮真貴&CKBがサンバ、そしてその隙間を縫うように英語と日本語の同時通訳的なMCが入る。BoAやCrystal Keyは、個人的にm-floらしさが良く出た楽曲だと思う。坂本龍一の参加した曲は多少好みが分かれるが個人的にはダフトパンクみたいな声のエフェクトはいただけなかった。曲自体は教授っぽさが出てると思う

今回のアルバムは以前からm-floを聴いていた層だと逆にフィルターがかかってしまいそうな気がする。何の予備知識もなく単に良さそうだから買うといった層のほうが楽しめると思う

< 20 21 22 23 24 25 26

 

最新の日記 一覧

<<  2025年6月  >>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293012345

お気に入り日記の更新

日記内を検索