視聴者と同じ時間軸で物語が進行するサスペンスドラマ

緊迫する24時間の出来事を1時間×24話で描く「リアルタイムドラマ」として話題を呼んだこの人気シリーズも第3シーズン。大統領候補暗殺(シーズン1)、核爆発(シーズン2)に続く新たなる恐怖は「バイオテロ」だ。多くの人々を短時間で死に至らしめる恐怖のウィルスがロサンゼルスの街にまき散らされるのを防ぐべく、おなじみジャック・バウアー(キーファー・サザーランド)が奔走する。いつものように、ジャックには事件以外にもさまざまな問題が降りかかるが、全力で何とかしようとする彼の「ギリギリ感」が相変わらずイイ味で、なんともカッコいい。ドラマシリーズとしても、先の読めない展開、テンションの高い演出ともにシャープさを増す一方。小手先のケレン味などもはや必要ないとでも言いたげな余裕綽々の語り口が頼もしい、円熟の出来映えだ

シリーズ3作目となる今作では、主人公ジャック・バウアーを含むCTU(テロ対策ユニット)がウイルスを拡散させるというバイオテロを防ぐために奔走する。毎度のことだがもう1人の主人公である大統領の物語と並行しており、再選に向けての準備中にあれこれと問題に巻き込まれ、それを解決しつつもバイオテロへの注視を怠らないという立場だ。だが前作・前々作と違い、両者の物語は交わることなく終わってしまうので、比重の少ない大統領の物語は付け足しというか・・・「大統領も関わらなければいけないほど大きな問題」という描かれ方の“足し”のような按配だ。その点で今作は脚本が今一つという印象

人気作というポジションを確立したことによって、大きなテーマのドラマを描くに当たって惜しみなく資本が投下されている。舞台も広範に渡り、都市部でのロケも多く、乗り物もジェット機やヘリ・戦闘機まで登場し、大作映画とクオリティはほとんど変わらない。ただ、それが面白さに直結しているかというと微妙なところで、安定感とお得感はあるもののこの作品の特徴である過剰なケレン味と物語の意外性が薄れているように感じた

私見だが、今作はこのシリーズの完結編として描かれたように思う。今作でこのシリーズを離れるレギュラーは多いし、内容も主人公ジャックの人間を描くという原点に回帰している。ただ、人間を描くといっても以前のようなキーファー・サザーランドの俳優としての魅力に依存したものではなく、ある程度の実績を持ち捜査をリードしていく役割を負った現場の捜査員としての悲哀を描いている。最後に見せるジャックの涙は唐突なシーンに思えるが、描いた意図が分かるとそれまでの流れで出来たジャック像が変わると思う

この作品を観終わると「あぁ、今作で24は終りなんだな」と実感する。続けようが無いような設定に持っていっているし、今までの確執にもケリをつけているからだ。ところがこの作品を観る前に米国ではシーズン4が始まったという情報も得ていて、これがどう繋がるんだ!?という思いもあり。医療ドラマ「ER」のようにレギュラー陣を総入れ替えして環境設定のみを生かして続けていくような真似をするのではないかと心配しているのだが・・・このシリーズの魅力はジャックだけじゃないんだぜ?
視聴者と同じ時間軸で物語が進行するサスペンスドラマ

物語がリアルタイムで進行していく画期的なサスペンス『24』がシーズン2に突入し、ジャック・バウアーはまたもや「最悪の日」を迎える。ふたたび刻一刻と時間が進んでいく緊張感は、もちろん前シーズンをはるかに上回る。ロサンゼルスのコンドミニアムに閉じこもり、娘のキムとも疎遠になっているジャックだが、とりあえず捜査官の仕事は引退……と思いきや、そんなことを気にするデイヴィッド・パーマー大統領と国家安全保障局ではなかった。カウンター・テロ・ユニット(CTU)に呼び戻されたジャックは、ロスの中心で放射性爆弾を爆発させようと企むテロ組織に潜入することとなった。タイムリミットは24時間だ。とにかく娘をロス市外へ出させたい一心のジャック。だが折悪しく、キムはベビーシッターとして働き始めていた。仕事先の家の子どもは、父親から虐待を受けている。ジャックの願いとは裏腹に、その父親の思惑は、まったく別のところにあった。スタートから何時間もたたないうちに、衝撃的なできごとが立て続けに起こり、来るべきクライマックスの盛り上がりを期待させる。シーズン1のファンにも満足のいく内容だ。たとえシーズン1を見逃していても、ジャックやキムの行動には、すぐに引きこまれていくだろう。新しい登場人物も加わり、おなじみのキャストがさらに光っている。ジャックのキャラクターがすっかり暗くなり、かなりキレかけているあたりは、意外というわけでもないがおもしろい。ジャックたちが直面する危機も、ますます地球的な規模に拡大する。現実の対テロ戦争にもとづくストーリーは、いうまでもなく時宜に即しており、刺激も強烈だ。シーズン1で見慣れた感のあるロサンゼルスが舞台だが、緊迫感とテンションの高さは前回をしのぐほどで、アドレナリンも沸騰。また24時間、テレビに釘付けとなるのは間違いない

何故か商品紹介が充実しているので、あらすじや見所等は上記を参照されたし

この作品では、シーズン1では設定の目新しさだけに留まっていた“24時間を24話にしてテロ組織と戦う”というテーマの重要性は薄れている。もちろん濃密な1時間を魅せるという部分は変わっていないが、前作にあったミステリの要素が薄れ、またプロットが練り上げられていたため同時進行しているエピソードが一つに繋がるという部分、事態を収拾しないといけないが時間が無常に過ぎていく“焦燥感”も薄れてしまい、今作は単なるジェットコースタームービーになっている

前作にあった緊張感はスパイの存在によりお互いが疑心暗鬼になっていくという部分と、家族のために職務を放棄し追われる身となる「逃亡者」的な部分に拠る所が大きかったが、今回は核爆発テロということで主人公のなりふり構わなさは前回の比ではなく、目的のためには人殺しもいとわない。また、前回退場したキャラクターを復活させ非常に効果的な使い方をしていて、前作を踏まえていると主人公を含む人々がどういう心境なのか手に取るように分かり面白さが増すと思う。ただ、全体的に展開や魅せ方が前作よりもあざとくなっており、主人公にあった人間味が薄れ単なる物語のキーマンとして描かれているのには多少がっくりきた。おまけに娘のキムが同時進行して織り成す物語は本筋に全く関係なく、水増し感も漂う

しかし面白いかどうかで言えば面白いし、好きか嫌いかで言うと前作よりもこちらのほうが好きだ。前作にあった家族ドラマの要素が無くなった事によって物語の温度が一定で、からっと乾いたアクションドラマになっている。登場人物を駒のように扱い人物像を掘り下げないことによって前作と比べて物語に整合性があり、核爆発テロは個人の感情を掬い上げている暇が無いほど重大な問題なのだという風に受け取ることができる描写をしてある

24話の長さを全く感じさせないドラマ。おすすめ

24 -TWENTY FOUR-

2005年1月21日 TV
視聴者の時間軸と同時進行する海外の人気サスペンスドラマ

対テロリスト機関・CTUのLA支局長・ジャックが事件を捜査するために奔走する24時間を描いた、K・サザーランド主演のサスペンスTVシリーズ

大統領暗殺計画の情報を得たCTUの要請により、オフだったジャックは職場へ呼び出される。彼の娘は深夜に遊びに出かけてしまい、父親として心配しつつも彼は職場へ出向く。そこで彼は上司からCTU内部に暗殺計画に関わる職員の存在を知らされ、その職員を探すよう要請される。ジャックは内通者を探しつつも暗殺計画を立てたテロ組織をつきとめることに全力を尽くしていく

この作品では、主人公、家族、大統領、テロ組織、CTUなど多角的な視点で物語が進行していく。各々が交わることはほとんど無く、それぞれがそれぞれの思惑で動き、それを包括する大統領暗殺計画というテーマである程度の自由度はありつつも物語が散漫にならないように配慮されている。視聴者と同じ時間軸で話が進むという設定、ようするに物語の中でも1時間しか時間が進まないことで、視聴者が過ごしている日常の中の1時間と物語の中の恐ろしく密度の濃いハイテンションな非日常の1時間の温度差をはっきりと感じさせる作りになっている。しかし時間軸は同じである為、温度差のギャップによって大統領暗殺計画という物語に身近なリアリティのようなものが存在しており、ジャックや大統領候補が織り成す家族ドラマの効果も相まって主人公の心の動きに感情移入しやすい

物語の内容は多少間延びした印象を受ける。しかし、主人公が疲労や焦燥の中でベストを尽くしている様をリアルタイムで余さず観ているという意識があるので感情移入していればカタルシスや苦悩、悲しみが非常に身近に感じられると思う

12話で一応完結するので、24話をすべて観るのは時間的に難しいと思っている方はその辺りで手を打っても良いかと

2004年を振り返る

2005年1月19日 日常
このブログを始めてから200作品以上あれこれとレビューをしてきたわけですが、2004年に聴いた/観た/読んだ作品の個人的なベストを今更ながら選出したいと思います。これは2004年にリリースされた作品ではなく、あくまで僕が2004年に触れることになった作品です。アシカラズ

・音楽

アストロマンティック/m-flo

これは去年最も良く聴いたアルバム。収録されているBoAが参加した曲はシングルも購入。因みにシングル盤を購入したのは5年ぶりでした。もともと個人的な嗜好としてじっくり聴かせるタイプの曲が好みでヒップホップにも疎いので、普通ならこの作品はあまり聴かないタイプの音。しかし、ヒップホップ特有の黒さが無くソリッドでポップかつ遊び心のあるこの作品は、作品のテーマでもある“パーティー”の要素も相まって聴いていて楽しく、また聴きやすい音色だった。語弊があるかもしれないが、非常に高品質なJ-POPだと思う

・DVD

Dr.コトー診療所BOXセット

やはり流れている世界観が優しく観ると心温まる。TVドラマということもあり、映画と違い観るのに集中力を要求されないので、酒を飲みながらぼんやり観たりするのには最適

・書籍

アフターダーク/村上春樹

2004年はあまり本を購入しなかったのでこの作品を選ばざるを得ない。非常に心待ちにしていた好きな作家の新作ということで一つ・・・。内容的には「風が吹いたら桶屋が儲かる」のほうを推したいところだが

・漫画

ヘルタースケルター/岡崎京子

2004年漫画はかなりの量購入したが、年の初めに読んだこの作品を越えるモノは無かった。物凄いエネルギーが詰まった作品。それに当てられるので体力のあるときでないとあまり読まないことにしている。独特の静けさや淡々とした世界観の「リバーズエッジ」と対を成す、過剰さと狂気にフォーカスした作品

今年は自分の趣味から少し外れた作品にも手を出しつつ、幅を広げていこうと思っています

16/50 1997-1999

2005年1月18日 音楽
解散を発表したスーパーカーのベストアルバム

タイトルが示す通り、1997年から1999年までに発表された50曲のなかから16曲を(ファンが)セレクトした、初期のベスト・アルバム。「鮮烈なイノセンス」とでもいうべきギター・フレーズと危ういダイナミズムをたたえたバンド・アンサンブル、そして、あまりにもはかなく、美しいメロディ・ライン。いずれの曲も、イントロが鳴り始めた瞬間、心の深い部分がゾクッとするような感触を与えてくれる名曲ばかり。90年代後半に大きな盛り上がりを見せた日本のギター・ロックだが、楽曲の良さという点では、SUPARCARに勝る者はいない

スーパーカーが公式HPで解散を発表した。個人的にはやっぱりというか、しょうがないと言うか、ショッキングではあるものの納得できるニュースだった。最近は大して聴くことも無かったバンドだが、アルバムはすべて持っている。彼らの音楽性は1stのギターポップから音響系へシフトしていき、それは一過性のものではなく、メンバーの強固な意志が見え隠れしていた。素人目から観てもバンド形態をとる必然性が薄れて行っていたのだ。おまけにメンバーは別名義でしている活動も音響系という徹底振りだった。だから、残念ではあるが特に驚きはしない。当然の帰結だ

この作品は初期〜中期の音源を編んだベストアルバムになっている。解散に伴い一応この作品を選んではみたが、どうやら全時期を網羅したシングルコレクションアルバムが再び編まれるようだ。同時に2枚組のB面コレクションもリリースされる。新規で聴く方はそちらを購入したほうが良いかもしれない

<収録曲>
Cream soda
DRIVE
Lucky
PLANET
Hello
TRIP SKY
My Girl
sunday People
JUMP
Love Forever
Low-down (Live Scene)
Flicker
Sun Ride
Summer Tune
Dive
BE

Love Letter

2005年1月16日 映画
岩井俊二監督作品

神戸に住む渡辺博子は、2年前に山で死んだ恋人の藤井樹に宛てた手紙をポストに投函したが、驚くことにその返事が届けられてきた。その手紙の主は、樹と同姓同名で彼のクラスメートでもあった、女性の藤井樹。やがて博子と樹の文通が始まる。俊英、岩井俊二監督の長編映画デビュー作であり、ロマンティックでミステリアスなラブストーリーの秀作である。博子と樹の2役を中山美穂がムーディに好演し、女優としておおいにステップアップした。回想でつづられる樹(柏原崇)と少女時代の樹(酒井美紀)のノスタルジックで淡い恋のやりとりは、劇中の白眉ともいえよう。さまざまなアイテムを効果的に用いた演出、淡い色彩の映像、メロディアスな音楽などのスタッフワークも光る、心洗われる逸品だ

この作品はまず風景が良い。北海道の小樽をメインに据え、基本的に全編雪景色となり、その鮮やかさを岩井俊二が詩的に描き出している。一人二役という制約が生み出すある種幻想的なムードや、俗っぽさを上手に排除しつつ生活臭を出した描写も相まって序盤からは感情移入できないと思う。しかし、柏原崇が出演する過去の回想シーンがメインになると、その設定が生きてくる。ワタナベヒロコは亡くなった夫の柏原崇の面影を追っている、つまり彼を引き摺り前を向けず過去にすがっているわけだが、柏原崇の学生時代を知るフジイイツキは彼が亡くなった事も知らず、彼が自分の面影を追ってワタナベヒロコと付き合ったことも知らず、屈託無く彼との思い出をワタナベヒロコに語っていく。その事でワタナベヒロコは彼への思いがフジイイツキにあったことを知ることになり、結果として豊川悦司のもとへ行くことになる

この作品の主役は現実的で活発なフジイイツキであり、少女趣味的に過去を引き摺るワタナベヒロコではない。それを悟らせず、最初はワタナベヒロコをメインに話を転がし徐々にフジイイツキの描写へシフトしていく。岩井俊二はこの映画を好む層をある程度想定した上で彼らの期待を裏切らず物語を着地させようとしており、結果それは非常に上手く行っていると思った

個人的には大根と思っていた中山美穂をここまで効果的に演出した岩井俊二の手腕に驚嘆した作品。豊川悦司、柏原崇、酒井美紀をメインに話が転がり、一人二役を演ずる中山美穂は非常に(演出上)自然で、あれこれ考えながら観ていても中盤からはぐいぐいと物語に引き込まれていくこと間違いなし

チーズケーキ

2005年1月15日 食べ物
今日は非常に気温が低く、底冷えする寒さだ
父親がそれを敏感に察知してびち入りのおでんを作ってくれた。じゃがいもやらにんじんやらが入っていて家庭的だ
その後、酒を飲もうかと酒瓶を見たらかなり減っていた。父親が間髪入れず「てびちを煮込むのは泡盛が良いって聞いたから」などと言う。こういう小さなことが家庭の不和を生むということが良く分かっていないようだ。父親を叱った

しかしなんだか父親にきつく当たりすぎたとか感じてしまい、また甘いものも食べたかったので、チーズケーキを作ることにした。最近レパートリーに入れた料理だが、未だ試行錯誤中だ。今回はサワークリームと生クリームを入れることにした。クリームチーズ、砂糖、バターと上記のアイテムを混ぜケーキ型に入れ温度を変え2回に分けて焼き上げる。最初は180度で30分。表面に焼き色をつけるためだ。その後160度に落として20分。中までじっくり焼き上げる

出来上がったケーキは家族に好評で、実際食べてみるとバニラエッセンスも入れていないのに香り高い。まぁ、冷めるまもなく食べてるんだから当たり前かもしれないが
「ナビィの恋」の中江裕司監督作品

沖縄でホテルを営む一家の娘、小学3年生の美恵子(蔵下穂波)は、元気いっぱいの女の子。にいにいは黒人とのハーフ、ねえねえは白人とのハーフと、家族構成もインターナショナル? そして美恵子は、森の精霊キジムナーを探すべく、冒険を続けていく。『ナビイの恋』で知られる沖縄在住の中江裕司監督が、仲宗根みいこの同名コミックを原作に描くファンタジックな沖縄キッズムービー。元気印いっぱいで時にやかましいほど(!?)の少女の冒険の数々は、どこか懐かしくて切ない。またファンタジーの中に沖縄の基地問題や戦争の傷跡といった社会問題をそこはかとなく盛り込んでいるあたり、実に奥の深い仕上がりである

主人公の美恵子を中心に、クセのある家族の日常を切り取るといった印象の作品。今までは離島を舞台にして沖縄の魅力を描いてきた監督が、沖縄の辺野古を舞台に沖縄に住む人々の等身大の日常を描き出す。米軍を相手にした商売の結果奇妙にアメリカナイズされた街並みを舞台に基地の存在を日常に落とし込み、より沖縄の赤裸々で常温の日常に踏み込んでいる。ナビィの恋はその部分において牧歌的だったが、この作品では沖縄が戦争の結果軍を受け入れた傷跡が当然のように日常に垣間見える。そういった意味合いで今作は沖縄の“たくましさ”に焦点を絞っているようだ

ただ、内容的にそれが面白いかといわれれば微妙だと言うしかない。おそらくこの作品で描かれ魅力とされているたくましさや日常にリアリティと既視感がありすぎて、沖縄で過ごす僕にとっては「わざわざ映画にしなくてもいいのではないか」と思ってしまうからだ。普通に生活していれば映画と同じような状況や話は結構転がっているわけで

「ナビィの恋」のメインキャスト達はこの作品でも様々な形で登場している。ボクシングジムの利用者である村上淳や、美恵子の学校の教師役の西田尚美、美恵子のおばあ役の平良とみ、美恵子が出会うキジムナーを飼っているというタンメー(おじい)役の登川誠仁。因みに今回もエンディングテーマは登川誠仁で、作中で弾き語るシーンもある

個人的には「ナビィの恋」のほうが良かったが、元気になれる作品ではあると思う。そして、日々にかまけてつい忘れがちな基地と沖縄の共生関係とウチナーンチュのたくましさとほがらかさを思い出させてくれる。もしかしたら、監督は沖縄の人へ向けてこの作品を作ったのかもしれない

チルドレン

2005年1月12日 読書
作家、伊坂幸太郎の連作短編集

こういう奇跡もあるんじゃないか?まっとうさの「力」は、まだ有効かもしれない。信じること、優しいこと、怒ること。それが報いられた瞬間の輝き。ばかばかしくて恰好よい、ファニーな「五つの奇跡」の物語。吉川英治文学新人賞作家、会心の受賞第1作!

短編集のふりをした長編小説です。帯のどこかに“短編集”とあっても信じないでください。伊坂幸太郎

この作品は、キーとなるキャラクター陣内を軸に、作品内に流れる時間を前後させつつ物語が展開していく。といっても、話は短編ごとにまとまっており、社会人になった陣内の物語と学生時代の陣内の物語が交互に編まれている。各々では語り部となる人物が設定されており、社会人編では同僚の武藤、学生編では盲目の青年永瀬の世界観を中心として、陣内がそこに絡んでくるという形を取る

作者が言うように、この作品はすべての短編を読み終えたとき一つのまとまった話となる。しかしミステリにありがちなトリッキーな意外性というものは無く、どこかとぼけた青春群像劇になっている。成熟した柔らかさを出す北村薫を現代風な若い価値観でディフォルメしたというような印象だ。また、意図的に文章表現を稚拙にしてあるようなので、その辺りはご理解の程を・・・ということらしい。

読後思ったが、この作品はミステリではない。そこに比重を置く方にとっては本を壁に叩きつけることになるかもしれない。ただ、個人的には予想外になかなか良かった。独特のさわやかな読後感は、マニアックさやらオーソドックスな魅力やらをありがたがるミステリの世界では得がたいものだと思うし、赤川次郎的な普遍性に落とし込むわけではなく現代の若者の価値観の一つを踏襲しているのでミステリに馴染みのない方にも受けが良いと思う

沈夫人の料理人

2005年1月11日 漫画
漫画家、深巳琳子が描く中華料理漫画

料理人の李三は、料理人としての腕は確かなのだが、気が弱い。沈婦人は若くておきれいでいらっしゃるが、食い意地がはっていて意地が悪い。で、李三は、プレッシャーをかければかけるほど実力を発揮するタイプで、その気性を見て取った沈婦人はおいしい物を食べたい一心で、同時に、おどおどとした李三の狼狽をぶりを楽しみたいがために、ひたすら李三に無理難題を吹きかけていぢめる。沈婦人と李三は、雇い主と召使いの関係から一歩も出ないわけだけど、どこか隠微でいやらしい感じがする。毎回登場する料理も、当時の上流階級の食事なわけだから、たいていは一食作るのに何時間もかかる手間暇のかかる代物で、作り方なども!丁寧に解説されているのだが、まあ、現代の日本のご家庭ではつくることはまず不可能でしょう。レシピとしては役に立たないけど、「おそらく旨いのだろうなあ」という感じは、ひしひしとします

主人公である李三(りさん)は真面目で小心者だが素晴らしい腕を持つ料理人。彼が上流家庭の劉(りゅう)家に雇われるところから物語は始まる。雇われ主の妻、沈(しぇん)夫人は食べることが大好きで暇をもてあましている底意地の悪い美人。彼女は無理難題を言い李三を精神的にいじめるが、いじめられればいじめられるほど知恵を絞り料理に工夫を凝らし美味しいものを作ってしまうという李三の振る舞いの所為で艶っぽい共依存関係が成立してしまうのだった・・・

この作品は絵が上手く料理が非常に美味しそうに見える。内容的にある種ソフトSMといえる内容で、精神的にいつも一杯一杯な李三に同情しつつも失笑を禁じえない。また、舞台が昔の中国とあって全体に流れる雰囲気に独特の優雅さと素朴さがあるので年配の方にも好まれるのではないかと。まぁ、掲載誌もその辺りがターゲットのようだし、新聞等の書評で絶賛もされているようなのでとっくに好評なのかもしれないが。かなりおすすめ
長瀬智也主演・宮藤官九郎脚本作品

昨日TVで放映された単発2時間ドラマ。極道で借金の取立てに行った長瀬智也が債権者である落語家・西田敏行の寄席を見て心を打たれ、彼から落語を習うというのが大まかなあらすじだ。本職の落語家を脇役に据えつつ阿部サダヲや釣瓶、V6の岡田、伊東美咲を華にドタバタコメディを描き出す

今回クドカンの脚本は切れまくっており、持ち味である軽妙な台詞のやり取りに留まらず構成も練り上げられていて、単発とは思えないほど役者のキャラ立てが上手く行っている。生まれてこのかた人を笑わせたことが無いという極道の長瀬智也が人を笑わせるために努力をする様は才能の無さを露呈しつつも自分なりに努力していくという相変わらずのクドカン節だ

残念だったのは、落語家としては才能がありつつ服のデザイナーをしているという役柄のV6の岡田があまり生かされていなかったことだろうか。彼の才能を見込んだ上で長瀬智也を弟子入りさせるように仕向けた割には彼の落語家としての力をほとんど伝え切れてなかったように思うし、裏原宿に居を構える彼の行動範囲の若者文化(?)を伝えるという意味合いでしか役に立っていなかったように思う

個人的には久々に面白かった。これが連作になる事を期待

鴨鍋

2005年1月9日 食べ物
寒いので鍋
材料は鴨肉、つくね、しいたけ、ねぎ、豆腐、ネギ、白菜、えのきだけ、鶏肉。割り下を少なめにいれ、水炊きの要領で肉を先に煮込み出汁を出す。その後材料を順次投入して行き、最後に豆腐を入れ蓋をし蒸して出来上がり

魚介類を入れた鍋がどうも苦手なので、家ではもっぱらキムチ鍋と鴨鍋、水炊きを食べている。牡蠣の美味さは永遠に分からないのだろう

Retriever

2005年1月8日 音楽
Ron Sexsmithの6thアルバム

通算6作目。前作『コブルストーン・ランウェイ』同様、マーティン・テレフェのプロデュースによるロンドン録音。派手さこそないものの、ロン本来の持ち味である愁いを帯びたメロディとヴォーカルがじっくりと味わえる1枚だ。英国録音っぽい手触りが印象的な「ノット・アバウト・トゥ・ルーズ」や、ビル・ウィザーズを意識したという流麗な「ホワットエヴァー・イット・テイクス」などさりげないけど良い曲がそろっている。何気ない日常生活の中で、時おりふと感じる幸せな瞬間……ロンの歌はそんな感じに近いかもしれない。年間1位に輝くような大傑作ではないけれど、これがあったから今年も充実していたなぁ〜と思えるような佳作。そんなたたずまいが、いかにもロンらしい

演奏は隙間を上手く味に昇華するタイプで、音色はその味に見合った渋さと曖昧さがある。落ち着いた雰囲気を作り上げじっくりと聴かせ酔わせてくれる。かといって枯れているわけではなく、全体的に暖かみのようなものがある。時代の音や流行を取り入れ華を持たせるというよりも、オーソドックスなものを取捨選択し組み合わせ普遍性を持たせることに意味を見出しているようだ

久しぶりに洋楽の新譜を購入したが個人的にはなかなか気に入った。おすすめ

SMiLE

2005年1月6日 音楽
Brian Wilsonの新作

ポップ・ヒストリーの中で最も有名な未完成アルバムといわれるビーチ・ボーイズの『スマイル』が、37年の歳月を経て、ブライアン・ウィルソン自らの手でついに完成した。彼の音楽を心から愛し理解しているジェフリー・フォスケット、ダリアン・サハナジャ(ワンダーミンツ)ら現在のツアー・バンドのメンバーによる強力サポートがあるとはいえ、21世紀の今、これほど緻密に構築された『スマイル』の新録版が聴けるとは、ファンの多くは夢にも思っていなかったはずで、それだけに、今まで“点”だったものが初めて“線”で繋がった感動は計り知れないものがある。そうした古くからの熱心なファンはもちろんだが、アメリカン・ノスタルジアを巡る壮大な一大叙事詩ともいえるこのシンフォニックな大作は、若い世代のポップス・ファンをも、現代のロックでは味わえない豊かな世界へと誘うだろう

個人的に、ビーチボーイズは歴史的名盤とされている「Pet Sounds」のみを所有しており、それはもちろん過去の遺産を押さえておくという意味合いで購入したのであり、それ以上の思い入れや知識は無い。そういうわけで、この作品がリリースされると知ったときも同じような思いで購入した。ようするに、好き嫌いはともかくある程度の理解をしておくべき作品と思ったわけだ。しかし、結果としてこの作品はそういった懐古商法に留まらない求心力を発揮していた。セルフカヴァーというのは基本的に保守的で枯れた味わいになりがちだが、今作はビーチボーイズのドリーミーでポップな楽曲を、遊び心があり洗練されたアレンジとコーラスワークで仕上げている。ビーチボーイズの楽曲としての良さは完全に残っていると思うし、単純に聴いていて楽しく良盤と思える

一聴してコーネリアス「ファンタズマ」との類似性を感じた。もちろん順序的には逆だろうが。かなりおすすめ
放送終了後も評判の高いバラエティのDVD化

日本テレビ系の人気バラエティ番組「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」が待望のDVD化。素人参加型の名企画を数多く生み出した伝説の番組が蘇る。今作は、たけしメモ、たけしコスプレ、裸族集会、早朝シリーズ、たけしが認めた個性派たちを収録

初笑いでもしてみるかという事で購入。他にテリー伊藤セレクションというものもあり

この作品は放送第一回目の映像で幕を開けるが、現在観てみると舞台、タレント、服、効果音、ノリのあまりの垢抜けなさに驚く。まぁ、この作品を購入した方は大概リアルタイムで放送を観た方だろうし、懐かしさが加味されるのでその辺りは気にならないのだろうが・・・。たけしの毒舌と会場や共演者のバカ受け具合と見ている自分の温度の差に少しばかり引いてしまう

ただまぁ、この作品は企画が秀逸で現在放送しているバラエティの規範を作ったという部分において評価されているようなので、上記の違和感はどうでも良い部分なのかもしれない。実際、企画は過激すぎたりタレントの扱いが酷かったり老人をコケにしていたり、潰す方向の笑いだったりで現在はやりにくいタイプの笑いだと思うし、その部分が売りでもあるのだろう。そういう笑いは得てして笑っちゃいけないという意識が働くので、それが商品としてパッケージングされているという事実に笑えてきてしまうというか。エンペラー吉田という爺さんが出てきていじり倒されるという企画が個人的には面白かった

しかし、バラエティというのは結局ナマモノであり、懐古の意味合いで観てもつまらないと感じた。現在のバラエティがつまらないという向きもあるようだが、この作品は時代の空気をつかんでいるという最も大事な要素がずれてしまっている上に、出ている企画は規範として何度も反復再生されているので、パイオニアなのかそうなのかという見方しか出来ない

たけしの笑いが好きな方はそれなりに面白いのではないかと

ナニワ金融道 6

2005年1月3日 TV
中居正広主演作品

青木雄二の大ヒット・コミックを、中居正広主演でドラマ化したシリーズ。大阪の裏金融界を舞台に、金融業者の青年と債務者たちが織りなす悲喜交々を描く


今回正月の特番としてパート6が製作。写真はパート5です

シビアな世界である金融屋の世界で甘さというかモラルを捨てきれない主人公が、登場する金に困った人と織り成す物語。当たり前のことだが金に困った人の温度というか金銭感覚のズレによって主人公のモラルは毎回相手に届かない。このドラマの中では他のドラマ等で賛美されている恋愛も金を作る一手段に過ぎず、一貫して金の怖さというものを描き出すことに腐心しているように見える

毎回金融の世界の専門知識や薀蓄が登場するが、今回はそういった薀蓄を使った頭脳戦の様相も無く、金に困った人の哀感のある笑いというかコメディの要素も無い。以前登場していた人物が出てくる、ようするにしぶとくしたたかに生き延びている様を見せるということはあるが、全体的に今回は主人公が世間の世知辛さというものを痛感し、打ちのめされるだけという趣旨になっているようだ。小林薫や緒方拳、梶原善、室井滋など一癖ある役者が華を添えている

個人的には前作のパート5のほうが面白さという点では上だと思う。金に振り回される姿に力なく失笑できるからだ。今作は救いが無いというか、哀れみが先に立ってしまい今一つだった

謹賀新年

2005年1月1日 日常
明けましておめでとうございます
旧年はお世話になりました。今年も一つ宜しくお願いします

1月1日にポール・スミスが毎年やっている福袋を数年ぶりに並んで買おうという事で友人と約束していたのだが、友人が仕事が入りあっさりと流れてしまった。因みにポールの福袋は6年前に買った時点で1万円と3万円の2種類がありS/M/Lとサイズ分けがされており内容は3万円のもので大体20万円前後の金額相当の商品だった。そして、それを手に入れるために午前5時から並んでいる人もいる始末。奴らは気合が違うのだ。2つや3つ同時に購入するのは当たり前という価値観なのだ。そんな奴らを相手にするとあって久しぶりに燃えていたのだが、あっさり予定はつぶれ、昼過ぎに起きて酒を飲みながらTVを観ている自分が此処にいる

大晦日

2004年12月31日 日常
今日は気温が下がり10度前後になっている。沖縄にしては結構冷え込んでいて、風も強く小雨も振るというように寒さが助長され家にこもるが吉とばかりに家族はTVを観ている。台所へ行くと三枚肉用の豚肉のカタマリとソーキが自然解凍のために置いてある。もちろん年越しそばのトッピングに使うためだ

大掃除も滞りなく終え、老人ホームで暮らしている曾祖母も自宅に帰ってきた。今年を振り返ってみると社会的にはそれなりに色々あったとは思うが個人的にはなかなか良い年でした

それでは良いお年を

3 different tones

2004年12月29日 音楽
畠山美由紀のライヴ盤。ライヴ会場・オンライン限定発売

3ヶ月連続で行われたライブ「3 different tones」 を収録した、ファン必携のライブ盤。小田急ロマンスカーのTVCMでお馴染みの「ロマンスをもう一度」(初音源化)、Port of Notesの名曲「ほんの少し」を含む全10曲収録

内容はアコースティックギターをバックに畠山美由紀が歌い上げる、音数の少ないライヴ盤になっている。録音状態もそれほど良いとは言えないが、ライヴ感があり畠山美由紀の歌唱力が堪能できるようになっている。選曲はカヴァーを少々とソロの楽曲になっており、シンディ・ローパーの「Time After Time」は声質にマッチしていて感情がこもっておりなかなか良い。ただ、この作品は全体的にクオリティという点で他の作品に比べて多少落ちる。流通経路を見ても分かるように、ファン向けの作品といえる

<収録曲>
01. Summertime
  Words & Music by DuBose Heyward-G.&I. Gershwin-Dorothy Heyward
02. Diving into your mind
  Words & Music by 畠山美由紀
03. 真夏の湿原
  Words & Music by 畠山美由紀
04. 新しいシャツ
  Words & Music by 大貫妙子
05. ロマンスをもう一度
  Words by 上野泰明 Music by 葛谷葉子
06. Time After Time
  Words & Music by Hyman Robert Andrew & Lauper Cyndi
07. 蘇州夜曲
  Words by 西條八十 Music by 服部良一
08. Cantador
  Words & Music by Dorival Caymmi & Nelson Motta
09. ほんの少し
  Words by 畠山美由紀 Music by 畠山美由紀&小島大介
10. あなたの街へ
  Words & Music by 畠山美由紀

リアリズムの宿

2004年12月28日 映画
つげ義春原作作品

『どんてん生活』『ばかのハコ船』など、その独自の“間”の演出のユニークさから“日本のジム・ジャームッシュ”の異名をとる山下敦弘監督が、つげ義春の漫画を大胆にアレンジして描きあげた作品。ちょっとだけ顔見知りの、駆け出しの脚本家坪井と映画監督木下は、何の因果かひなびた温泉街へとやってくる。真冬の海で泳いでいた水着姿の少女・敦子と出会うふたり。ふらふらと彷徨うように、3人の旅は続く…。坪井と木下の、その微妙な距離感が、なんとも言えないおかしさを誘う。金もないのに見栄を張りたがるふたりだが、その行動はどこかハズしていて、これまたくすくすと失笑を禁じ得ない。時折交わす鋭い会話の応酬。バディムービーと呼ぶには友情不足、ロードムービーと言うほどドラマティックな盛り上がりはない。あるある感を沸き立たせる空気とちょっとした優越感を感じながら、だめだめなふたりの男を眺めているうち、いつしか共感している自分に気づくかも

この作品は奇妙な後味を残す。ドラマチックでもなく派手でもなく毒も無くどこまでもオフビートで、一見無駄だとも思える長回しのカメラワークが計算されたものだと気づき間の面白さを感じるようになるのに長い時間はかからないはずだ

旅館で飯を食べるシーンや釣りをしているシーンなど、普通なら割愛するようなシーンをメインに据え、台詞もほとんど無く表情と演技だけでニヤリと笑える可笑しさを出している。そして、単に「あぁ、こういうことあるよなぁ」という共感だけに留まらない魅力がこの作品にはあると思う。主人公を含む登場人物の佇まい、生活観を出しすぎた展開、ヒロインの非日常性、舞台となった鳥取の日本情緒溢れる雰囲気・・・それらを包括する独特の“間”がすべての要素を引き立たせ、心地よさを感じさせるのだ。間が全てと言っても良い

シチュエーションによる笑いを何処までも追及しており、楽しみ方をつかんだら失笑ぎみの笑みが続くのは間違いないところ。おすすめ

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